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地主さんが地代を増額する際、過去に更新料を受け取っていない場合、その分を考慮して地代をあげておきたいと思うのが地主さんの心情です。
しかし、それを考慮してよいものか、明確な判断基準を見たことがない人も多いのではないでしょうか。
今回は更新料の未払い分は賃料に上乗せできるのか、判例をもとに解説します。
今回ご紹介する裁判例は、最近の東京地裁、令和5年のものですが、”地代増額請求事件”で地主側の地代増額が一部認められたケースです。
この中で地代増額と過去の更新料について、裁判所が一つの見解を示しています。
いつもの通り、最初にお断りしておきますが、今回ここで取り上げる裁判例は、東京地裁の下級審のもので、それぞれの事例ごとに前提条件が違う事、ケースバイケースによって、その判断に至った理由も異なってきますので、必ずしも一般化できない場合が多いものです。この点、あらかじめご留意ください。
事例の概要
対象土地は、東京都の千代田区の商業地です。
地代は月額588万円、この地代の固定資産税に対する倍率が2.0倍の水準でした。
それと、23年以上長年一度も改定されていませんでした。
そして、土地賃貸借契約では、更新料の支払いに関する合意がありませんでした。
また本件賃貸借契約が法定更新されたことによって、借地人は地主に対して更新料を支払うべき義務がなかった、というケースです。
この事案では、最終的に裁判所が依頼した不動産鑑定士によって、地代鑑定されました。その結果、『支払われていなかった更新料を考慮して、地代を高めに鑑定』されました。
これに対して、借地人からは、『更新料を支払う契約上の定めがないのに、更新料が支払われていないことを考慮して地代を決めるのはおかしい』という主張がされたのでした。
さて、裁判所はどういう見解をしたのでしょうか。
結論として、裁判所は地主側の肩を持って、未払い更新料を地代に反映すべきと示しました。
その根拠としては、『更新料は経済的には実質、地代の前払い的な性格をもっているので、これを考慮することは当然』としました。つまり、地主側の言い分を認めた、地主の勝ちということです。
裁判年月日 令和5年3月8日、東京地裁、令3(ワ)21739号
『更新料は経済的には実質、地代の前払い的な性格をもっている』ということを、初めて知った地主さんもいるのではないでしょうか。
そもそも更新料については、法律上の規定がありません。そのため、更新料の性質については、次のようにさまざまな見解があります。
このように見解が分かれているものの、「更新料=将来の賃料に対する補充」とすれば、もし更新料が支払われない場合、未払い分を将来の賃料に上乗せすることも可能ということです。
なお、更新料については、「次の契約期間に借りる権利の前払い金」と考える立場もあれば、「前の契約期間に対する後払い」と考える立場もあります。これは借地権買取時に更新料は返す必要があるのかどうか、ということにつながりますので、ぜひ次の記事もあわせてご覧ください。
関連記事:借地権買取時に更新料は返す必要はある?更新料は後払いか前払いかについて解説!
最後に不動産鑑定士としてのアドバイスですが、地代の決定のタイミングにおいて、未払い更新料を直接的に上乗せするかどうかは、契約内容や具体的な状況によって、個別に考慮していくことが必要です。
また、具体的にいくら上乗せするか、ということについては、不動産鑑定士の評価に基づき決めるのがおすすめです。
地代や更新料に関する問題でお困りの場合は、ぜひ当事務所へご相談ください。
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