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皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。今回のテーマは、「店舗の立退料」についてです。
物件を店舗用に貸し出しているものの、何らかの事情で立ち退いてもらわなければならなくなった、ということもあるでしょう。
このような場合、一種の補償として「立退料」を支払うことがあります。
今回は店舗の立退料は月額賃料の何か月分が相場なのか、餃子屋の店舗立退が争点となった裁判例に沿って紹介していきます。
※今回ここで取り上げる裁判例は、東京地裁の下級審のもので、それぞれの事例ごとに前提条件が違う事、ケースバイケースによって、その判断に至った理由も異なってきますので、必ずしも一般化できない場合が多いものです。この点、あらかじめご留意ください。
立退料とは、賃貸人が店舗などからの退去を求める場合に、賃貸人から賃借人に対して支払われる補償金のことです。
そもそも借地借家法では、借家の賃貸借契約を終了させるにあたって「正当事由」が必要とされています。
「正当事由」とは、賃貸人が賃貸目的物(ここでいう店舗)を使用する必要性が、賃借人の必要性よりも上回る、ということです。
ただし実際に「賃貸人のほうが店舗を必要としている」と立証することは簡単ではありません。
そのため実務上、賃貸人の正当事由を補完するために、賃貸人から賃借人に金銭を支払うことで、立ち退きが認められるようになりました。この金銭が、便宜上「立退料」と呼ばれているのです。
今回ご紹介するのは、建替えに伴うテナントの立退料の最新の裁判例で、月額家賃8万円で貸している餃子店の退去・立退きが認められた事案です。
不動産オーナーの皆さんには、是非とも知っておいてもらいたい事案となりますので、今回はそれを取り上げて解説したいと思います。
では事例の概要です。今回の件ですが、貸主は、老朽化した建物を建替えたいと考え、現行の建物の耐震性がないことを主たる理由に、裁判所に建物明渡しの訴えをおこしたのでした。
物件は、杉並区にあって昭和51年の建築で築47年。この建物の1階の一区画に、餃子店が入居しています。このテナントに貸して約42年が経過しました。家賃は月8万円です。以前は、この餃子店以外に、はんこ屋とお好み焼き屋が同じ建物に入居していましたが、これらの店舗はすでに退去し、残る店舗は、本件の餃子店だけというケースでした。
賃借人は、ここで長年手作り餃子を販売するとともに、5席の飲食スペースのある店舗で、テイクアウトにも対応しています。賃借人の年齢は70代後半で、年金は年間約27万円くらいしかなく、餃子店での収入が生活の糧となっています。
さて、今回の立ち退きについて、裁判所の判断はどうなったか?ですが、簡単にいうと建物の耐震不足による危険性を評価し、この餃子店に対して立退きを認めたのでした。
ちなみに裁判所が示した立退料ですが、690万円でした。これは借家権に営業補償を考慮して査定したものです。借家権とは建物を借りる人がもつ権利のことで、営業補償とは、営業の中断による売上減少のカバー、移転にともなう経費なども含んでいる、とのことでした。
この立ち退き料の690万円は、家賃が月額8万円なので、家賃の86ケ月分となります。
下記の表は、店舗の立退料が月額家賃の何か月分にあたるのか、裁判例を私のほうでまとめたものです。
建物の築年数(店舗) | 借家契約の期間 | 業種 | 月額家賃(管理費込) | 借家人の要求 | 立退料の判決 | 月額家賃 ÷ 立退料(約) |
50年程度 | 45年度 | 理容店 | 10万円 | 2,000万円以上 | 802万円 *1 | 80ヶ月 |
65年以上 | 40年以上 | 理髪店兼住居 | 12万円 | 5,280万円 | 972万円 *2 | 81ヶ月 |
47年程度 | 20年程度 | 1F 台湾料理店 | 58万円 | 判決額以上 | 2,330万円 *3 | 40ヶ月 |
44年程度 | 18年程度 | タイ料理店 | 55万円 | 8,624万円 | 3,000万円 *4 | 55ヶ月 |
55年以上 | 40年程度 | とんかつ店 | 40万円 | 1億6,500万円 | 3,000万円 *5 | 75ヶ月 |
40年程度 | 13年程度 | ラーメン屋(7席) | 15万円 | 2,000万円 | 1,556万円 *6 | 104ヶ月 |
70年以上 | 50年程度 | 1F 骨董品屋 | 20万円 | 1億6,370万円 | 1,270万円 *7 | 64ヶ月 |
53年以上 | 10年程度 | 1F 古美術商 | 10万円 | 1億1,448万円 | 1,730万円 *8 | 173ヶ月 |
出典は、【ケーススタディで学ぶ】地主が知っておくべき 地代交渉と借地・共有地の有効活用 /ロギカ書房 2022、P238より。
立退料は家賃の40か月~173か月と少し幅がありますが、先ほどの餃子屋の店舗の立退料86か月分というのも、過去に裁判例をみてきた私の個人的な感想としては、おおむね相場といえるのではないかと思います。
先ほどまとめた表にあるとおり、立退料は家賃の40か月~173か月と少し幅があります。
月額賃料の何か月分が適正な立退料となるかは、やはりケースバイケースで異なるため、もし立退料をいくらにすべきか分からず困っている場合には一度専門家に相談することをおすすめします。
当サイトを運営する株式会社日本橋鑑定総合事務所でも地主・貸主からの相談を受け付けておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
以上、今回は「【立ち退き料】裁判例、餃子屋の店舗立退料は月額賃料の〇〇ケ月分!」でした。今回の話はここまで。
参考:裁判年月日 令和5年4月17日、東京地裁、令3(ワ)5717号
なお、過去に店舗の立退料について解説した動画もありますので、興味のある方はそちらの動画もぜひチェックしてみてください。
【保存版】店舗テナントの立退料相場(裁判例)
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