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皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。
地主のご家族、親族で土地を共有しているケースも、決して珍しいものではありません。
しかし親族で複数の土地を共有していると、土地の有効活用に困ったり、相続でさらに複雑になることがあります。そこで今回は、地主向けに、親族で持ち合う共有地の解消法について紹介します。
共有不動産のリスク
そもそも土地などの不動産を共有することには、さまざまなリスクがあります。まずは共有不動産ならではのリスクについて見ていきましょう。
- 重要な決定に共有者の同意が必要になる
- 土地の売却価格が下がる
- 不動産会社に狙われる可能性がある
重要な決定に共有者の同意が必要になる
共有不動産は、売却・建て替えなどの「変更行為」は原則として共有者全員の同意が、賃貸などの「管理行為」は原則として持分の過半数の同意が必要です。
不動産に関わる重要な決定に、共有者の同意が必要になるため、スムーズに事を進められないことも少なくありません。
土地の売却価格が下がる
共有不動産の売却価格は、共有でない不動産よりも下がる可能性が高いです。なぜなら先述したとおり、共有持分は使い勝手が悪いためです。
例えば、1億円の土地を兄弟二人が2分の1ずつ共有している場合、二人の意見が一致して売却すれば1億円で売れるでしょう、しかし片方だけが持ち分を売る場合、1億円の半分の5000万円では売れることはほぼありません。
不動産会社に狙われる可能性がある
通常は売りづらい共有不動産ですが、共有持分の買取を専門とする不動産会社が買い取ってくれることがあります。これは一見、良いことに思えるかもしれませんが、土地の所有者としてはあまりメリットのあるものではありません。
例えば先述した1億円の土地のうち、不動産業者が50%の共有持分を、1000万円で買い取ることがあります。親族間で仲が悪く、なおかつ現金を早く手にしたい共有者が、安く売却してしまうということです。
次に、不動産業者は、他の共有者に対して、残りの50%の共有持分を、5000万円で売却するように求めてきます。そうすれば不動産会社は、1億円相当の土地を、合計6000万円ほどで手にすることができるためです。
もし、他の共有者が売却に応じなければ、業者は裁判を起こして「共有物の解消」を求めることになります。共有物分割請求権を使って、共有状態を解消しようとするわけです。最終的に自分の持ち分を、不動産会社に売らざるを得ない場合も珍しいことではありません。そして業者はその後、土地を1億円で売却すれば大きな利益を得ることができるのです。
共有物分割請求とは
上記で触れた「共有物分割請求」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
「共有物分割請求」とは、共有状態を解消するために、他の共有者へ共有状態の解消を求めることです。
東京地裁の令和4年1月13日、事件番号令和2年ワ、29732号を例に、共有物分割請求がどのように行われるのか見ていきましょう。
世田谷区にある土地の共有者は、地主と不動産会社の2人でした。地主が4分の1を、残り4分の3を不動産会社が所有しているという状況です。
もともとは親族が所有していた土地が、何らかの理由で不動産会社に売却され、現在の共有関係になっています。
裁判に至る前に、不動産会社が地主に対して4分の1の持分の買い取りを提案しましたが、話し合いはまとまりませんでした。
この裁判では、以下の3つの流れで最終的に解決が図られました。
1.現物分割の検討
まず最初に検討されたのは「現物分割」、つまり不動産を実際に分けられるかどうかです。しかし本件では、土地を2分割することはできませんでした。
土地の形状や間口が狭く、分割すると不動産価値が下がってしまうと判断されました。
2.全面的価格賠償の検討
次に検討されたのは「全面的価格賠償」、一方の共有者が、他方の持分を買い取って単独所有する方法です。
地主も不動産会社も両者とも自ら買い取って単独所有を希望しましたが、この方法には最高裁判所の基準に照らし合わることが必要です。
具体的には、①特定の人が単独所有になることの妥当性、②不動産の適正評価、③買取りの支払い能力などが基準となります。
本件では、地主が現在別の場所に住んでいることや、競売を通じて最高価格で買い取れる可能性があるとして、地主の主張は退けられました。
3.競売による売却
最終的に裁判所は「競売によって売却したお金を分けなさい」と結論を出しました。競売にかけることで、両者はその持分を現金化し、分割することが決定しました。
ここまでの流れで分かるとおり、共有物分割請求によって、あなたの土地が強制的に売られてしまう可能性もゼロではないのです。
また、共有土地の分割では、とくに評価の問題で揉めることが多いです。双方の不動産評価が異なって主張が食い違うと、解決には時間がかかります。私の経験では、解決までに少なくとも2年、長ければ3年ほどかかることが多いです。
土地の共有を解消する4つの方法
ここまで紹介したような事態を防ぐためには、土地の共有を早期に解消しておくことが大切です。
そして共有地の解消法としては、次の4つが挙げられます。
- 現物分割
- 共有持分の売買
- 等価交換
- 共同売却
それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
現物分割
共有者が少なく、土地が広ければ、土地を分割して単独所有にする方法です。物理的に土地を分ける方法、つまり現物分割です。
たとえば土地を2分の1や3分の1に分割して、それぞれが単独所有すれば、権利関係を整理できます。
この方法は分かりやすいですが、土地の形や価値が悪化することがあるため、不動産鑑定士に相談することをお勧めします。
共有持分の売買
共有者が他の共有者から持分を買い取ることで、所有者を一人にすることも可能です。
買取価格の決定が難しいですが、不動産鑑定士のサポートで適正価格を算定すれば、問題を解決できます。
等価交換
複数の共有地がある場合、等価交換も有効です。
そもそも交換契約とは、当事者が互いに、金銭を除く所有物の財産権を移転しあうことです。(対価として金銭を支払う場合は売買契約となります)
たとえば兄妹が持ち合う土地を、同じ価値になるよう交換すれば、それぞれの土地を単独所有にできます。
なお、等価交換を行う場合、交換にかかる経費や評価額の差額精算が必要です。現金が必要な場合、土地の売却を通じて資金を調達する方法も有効です。
共同売却
共有者全員で土地を売却し、売却代金を分けるのも、共有状態の解消方法となりえます。
全員の賛成が必要ですが、問題を一度に解決できるため、意見が一致するなら検討の余地があるでしょう。
ただし先述したとおり、裁判にまで発展すると、共有地を競売で売却して得た代金を分けることになるケースもあり、意に沿わない形で売却を迫られる可能性もあります。
地主の共有物分割は不動産鑑定士に相談するのがおすすめ!
共有物分割はトラブルになりやすく、例えば弁護士から「共有者全員で売ることが望ましい」と言われることもあります。しかし、先祖代々の土地を手放したくない地主の方も多いです。
親族間での土地共有は、時間が経つにつれ複雑になりがちです。早期に解消方法を考え、土地の活用を進めましょう。当事務所では、共有者全員で売却する以外の方法、例えば「共有物交換」など、特別な手法を用いて土地を残す方法を提案することも可能です。
詳しい事例については、私の著書でも紹介しています。
▶【ケーススタディで学ぶ】地主が知っておくべき 地代交渉と借地・共有地の有効活用
当事務所では、土地活用や共有地解消のサポートを行っています。お気軽にご相談ください。
