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こんにちは、不動産鑑定士の三原です。
今回のテーマは「いったん立退きを諦めるしかないケース」についてです。実際に立退料8,800万円という高額な提示をしても立退きが認められなかった事例をもとに、裁判の経緯とポイントを解説します。
高額な立退料でも借地返還が認められなかった事例
本件の舞台は東京都内。以下が概要です
- 地主:お寺
- 借地面積:20坪
- 借地人の建物:築55年以上
立退き交渉に至る経緯
地主が契約満了時に更新を拒絶し、立退料8,800万円を提示するも、借地人が更新を求めたことで裁判に発展
裁判の争点は「地主側に更新を拒絶するための正当事由があるかどうか」でした。
地主側の主張
- 借地権が始まってから100年近く経過しており、現状の建物も築55年以上が経過している。
- 本件借地はお寺の敷地の入口に位置しており、檀家や参拝客のための利用が必要。
- 借地を返還してもらうことで、お寺全体の敷地を有効活用できる。
借地人側の主張
- 借地上の建物1階で飲食店を営み、2階は居宅として使用。これが生活の基盤となっている。
- 埼玉県に再婚した夫の団地はあるが、そこは夫の前妻とその子供たちが過ごしていた場所で、借地人自身は住んだことがない。
【裁判の結果】
結論として、裁判所は地主側の主張を認めず、「正当事由がない」と判断。契約の解除は認められず、借地権は更新される結果となりました。
地主と借地人、それぞれの事情が比較されましたが、以下の理由で借地人側が優位と判断されました
1. 借地人の生活基盤
借地人は飲食店の売上を生活費に充てており、現在の建物が生活の基礎になっていることが重視されました。
2. 地主の自己使用の必要性
地主側の主張する「お寺の敷地の有効活用」という必要性は、借地人の生活基盤に比べて低いと判断されました。
3. 立退料の金額の影響
立退料8,800万円という高額な提示はありましたが、そもそも正当事由がない場合、提示金額は裁判で考慮されません。
裁判例の詳細
- 裁判年月日:令和4年6月28日
- 裁判所名:東京地裁
- 事件番号:令3(ワ)16188号
- 事件名:建物収去土地明渡請求事件
いったん立退きを諦めた後に地主ができる対策
今回のケースでは、立退きを実現するための正当事由が認められなかったため、地主としては以下のような長期的な対策が必要です
- 正当事由が認められるタイミングを待つ
- 地代を見直す
1. 正当事由が認められるタイミングを待つ
借地人が飲食店を辞めるなど、生活基盤に変化が生じるタイミングを待つのも一つの手です。
長期的な目線で待つのも、戦略としては有効です。
2. 地代を見直す
固定資産税が上がったタイミングで地代の値上げを打診するなど、地道に状況を改善することもできます。
地代の値上げを積極的に行うと、どうなるでしょうか。
たとえば過去に内容証明郵便や調停、裁判などの経験がある借地権を、高い金額を出してまで購入しようと思う方はいないでしょう。結果として、借地権の価格は下がります。
つまり、借地人が売却先を見つけるのが難しくなるということです。
この場合、借地人は第三者に売却しにくくなり、「地主に借地権を買い取ってほしい」と思うようになるかもしれません。そうすれば、借地権を安く買い戻せる可能性も高まります。
関連記事:地代の値上げはするべき?地主が損をしないためのポイントを不動産鑑定士が紹介!
底地の返還・立退きについても不動産鑑定士に相談できる
今回の事例は、不動産オーナーの方にとって厳しい現実を示しています。正当事由が認められない限り、高額な立退料を提示しても契約解除は難しいのが現状です。
ただし、いずれは土地を取り戻したいと考えている場合、固定資産税が上がったタイミングで地代の値上げを打診するなど、長期的な視点で粘り強く対策を講じることが大切です。
もし同じような状況でお困りの方がいれば、当事務所にご相談ください。プロの視点から、どのような戦略で立退きを目指していくべきかお話させていただきます。