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こんにちは、不動産鑑定士の三原です。
賃料改定において、「直近合意時点」がどこに設定されるかは、非常に重要なポイントです。
そこで今回は、不動産オーナーの収益を最大化するために、「あえて合意更新しない作戦」について紹介します。
直近合意時点とは、直近で賃料改定が合意されたタイミングを指します。
もう少し細かく見ると、次のような定義があります。
不動産鑑定評価基準:直近合意時点=契約当事者間で現行賃料を合意し、それを適用した時点
判例:直近合意時点=賃貸借契約の当事者が、現実に合意した賃料のうち、直近のものを定めた時点
具体的には、次のようなタイミングが直近合意時点とされます。
賃貸借契約の状況 | 直近合意時点 | 直近合意時点ではない |
賃料改定について、現実の合意がないまま契約を更新している | 最初に契約締結した賃料(現実の合意がある賃料)が適用された時点 | 契約を更新した時点 |
賃料自動改定特約がある | 賃料自動改定特約のある契約が適用された時点 | 自動的に賃料が改定された時点 |
少々複雑に思えるかもしれませんが、賃料について協議・合意した時点が直近合意時点です。
合意のないまま契約を更新したり、実際に賃料が改定されたりしても、それは直近合意時点ではありません。
前置きが長くなりましたが、そもそも直近合意時点は賃料にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
直近合意時点は、賃料増減額請求の際に、「賃料の基準」となることがポイントです。
そもそも賃料は、賃貸人と賃借人の合意により自由に決められます。
しかし現実的には、むやみに高額な賃料に変更したいと要求しても、賃借人が拒否する可能性もあるでしょう。そのため実務的には、直近の合意時点からどのくらい経済情勢が変化し、現在の賃料が不相当になっているのかを見ることになります。
例えば、今が令和7年、直近合意時点が平成26年であった場合、平成26年を起点にして賃料評価が行われます。
仮に平成26年の合意後、賃料改定について現実の合意がないまま契約を更新し、賃料が据え置かれて現状維持が続いていたとしても、直近合意時点が平成26年と決まれば、その時点からの地価の変動などを反映させて賃料評価をすることになります。
そのため、賃料が長期間据え置きの場合、あえて合意更新しない方がオーナーにとって有利な場合もあるのです。たとえば昨今は年々地価が上昇していますから、直近合意時点が古いと、それだけ現状の賃料の不相当が大きくなり、増額交渉がしやすくなります。
このため、賃料の増額交渉のために、あえて合意更新しないという作戦も有効なのです。
次に、具体的な判例を紹介します。これは東京地裁の令和4年の判決です。この事例では、六本木にある貸店舗付きのビルのオーナーが、店舗の家賃が安すぎるとして賃料増額を求めた案件です。
もともとの契約は昭和から続いており、平成2年から月額家賃78万円程度で現状維持が続いていました。
しかし、平成26年の更新時に、同額の78万円で合意されてしまいました。このため、オーナーは値上げを希望していたものの、直近合意時点が平成26年に設定されてしまったことが問題となりました。
裁判所はオーナーの意に反して、直近合意時点を平成26年として賃料増額を計算しました。結果として、賃料は月額78万円から117万円に増額されました(約1.5倍)。
ただし、オーナーは当初421万円を請求しており、この判決には不満が残ったと思われます。(もし直近合意時点がさらに過去と認められれば、もっと高額な賃料が認められたかもしれません)
この判例から得られる教訓としては、賃料改定を行う際には直近合意時点が重要であり、あえて合意更新しないことも一つの作戦となり得るということです。オーナーが更新合意を行うと、その時点から賃料評価が進められてしまうため、慎重な判断が求められます。
また、最初から高額な賃料を請求するのではなく、妥当な金額で請求する方が、結果的に値上げ幅が大きくなることもあります。
参考裁判例
裁判年月日:令和4年(令和元年(ワ)11347号)
事件名:借賃増額確認等請求事件
直近合意時点は賃料評価に大きな影響を与えます。オーナーは、更新合意を避けたり、慎重に賃料交渉を行うことが有利な場合もあることを覚えておきましょう。
また、賃料をどのように増額していくべきかのかは、不動産鑑定士に戦略を相談することも可能です。当事務所でも地主の方からのご相談を承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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