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こんにちは、不動産鑑定士の三原です。今日のテーマは、「(判例)お寺の適正地代は税金の〇倍?!」についてです。
一般的に「お寺が貸主の地代は安い」と思われがちですが、お寺が土地を貸す場合、ボランティアで行っているわけではなく、しっかりと地代を設定する必要があります。近年、お寺の地代に関して地主であるお寺と借地人との間で争いが生じた事例があります。
今回は、東京地裁の令和4年3月1日に判決が下された事例(令和3(ワ)8852号)をもとに、お寺の地代について解説します。
お寺が地主の土地の適正地代は固定資産税の3倍?
インターネットで検索すると、「お寺が地主の借地は賃料が安い」という情報が見つかります。
たしかにお寺が地主の場合、地代が安いこともあります。
実は法人税法では、借地の地代が「固定資産税等の3倍以下」であれば、お寺に法人税が課されません。
固定資産税の3倍以上の地代を設定すると税金がかかってしまうため、お寺は節税のために、地代を周辺相場より安くしていることもあるのです。
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ただし、これは「お寺が地主の土地の適正地代は固定資産税の3倍」ということではありません。
お寺が税金を課されてもいいと考えている場合には、周辺相場と同等の地代を設定しても何の問題もないためです。そのためお寺が地主だとしても、固定資産税の3倍以上の地代が設定されていることもあります。
お寺が地主の土地の借地料について争われた事例
それでは実際に、お寺が地主の土地の借地料について争われた事例について見ていきましょう。
借地人の主張
借地人は、お寺が土地を貸す際、地代は固定資産税の3倍を超えない金額で貸し出すケースが大多数であると主張しました。これを根拠に「地代は固定資産税の3倍で決めるべきだ」と訴えたのです。
裁判所の判断
この主張に対して、裁判所は借地人の言い分を認めませんでした。借地人が提出した証拠として、インターネット上の不動産情報に関するサイトを印刷して提出しましたが、そこには「お寺の税金計算の解説」が記載されていたに過ぎません。具体的に「お寺の地代が固定資産税の3倍であるべきだ」という記述はなかったのです。
裁判所は、借地人の主張が正当であるとは認めませんでした。確かに、お寺が税金の3倍で貸し出す例もありますが、それが適正な地代だとする根拠は薄かったというわけです。
本件における裁判所の判断では、土地の適正地代は固定資産税の5倍が相当であるとの結論に至っています。これはあくまで本件に限った判断ですが、他のお寺の土地においても、固定資産税の3倍という一律の基準にこだわる必要はなく、周囲の相場や事業目的に応じて柔軟に地代を設定すべきだということが示唆されています。
周辺地価や物件の特性を考慮した適正金額を設定することが重要
お寺が地主の場合、税金を抑えるために地代を固定資産税の2.99倍に設定する例もありますが、収益事業として土地を貸す場合、その理由があって税金の3倍で設定する必要はないと言えます。例えば、周辺相場より高く設定されているお寺の地代も存在します。
お寺の地代に関しては、「固定資産税の3倍」という一つの基準に固執するのではなく、周辺の地価や物件の特性を考慮して適正な金額を設定することが重要です。今回の判例は、そういった柔軟な地代設定を支持するものと解釈できます。
以上、今回のテーマ「(判例)お寺の適正地代は税金の〇倍?!」についてでした。もしお寺が所有する土地の賃料設定についてお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。