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皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。今日のテーマは、「古アパートの建替え。立退きのコツは〇〇性をアピール」についてです。
今回は、東京地裁の令和3年7月30日事件番号平成30年ワ、2221(号)から、古アパートに済む叔母である賃借人の立退きを認めた判例について説明したいと思います。
古いアパートの建替えで、住人にどうやって出ていってもらうか頭を悩まされている家主さんも多いかと思います。そこで今回は判例における典型的な明け渡しを導く理由づけといいますか、ちょっとしたコツについてお話したいと思います。
事案の概要
物件の場所は、板橋区にある昭和48年築の木造2階建ての建物です。ここの1室に叔母さんが昭和48年から月6万円で借りて住んでいました。この叔母さんは、80歳前後で病気をわずらい、歩行に支障もあり杖を付いている状況で、このままここに住み続けることを希望しています。また、叔母さんの息子も同じアパートの貸室を月6万円で別に借りて住んでいる状況でした。
このような状況で、家主は建替えを理由に叔母さんとその息子に建物明渡しを求めた事件でした。
判決の結論
結論からいうと、裁判所は叔母とその息子に立退料を150万円ずつ支払うことを条件に、明渡しを認めました。
高齢の借家人の明渡しは一般的には難しいと言われますが、今回の家主に明渡しが認められた決め手の1つは、建物の耐震性の問題でした。しかも、板橋区が指定した建築士に耐震診断を依頼した結果、大震災で倒壊する可能性が高い、と示されていたということです。
また、仮に、この建物を維持したまま補強工事を行うと、少なくとも2000万円の費用がかかり、新築するのと同じくらいの費用がかかるということでした。
一方で、叔母さんには年金収入があり、その息子も月給を得ていることから、退去することによって生計の手段が失われることがない、近所に他の賃貸物件もあるだろう、と指摘しています。
判例から学ぶポイント
要するに、住民の住む権利よりも、建物の倒壊から住民の命を守ることを優先するような理由づけ、ストーリーになっている訳です。
個人的な意見
実は親族間の賃貸借に困っている方も多いと思います。今回の事例のように裁判までやりたくないという方もいますが、結局、裁判をやらないと決着がつかないことも多いのだと思います。そして裁判になったら、単に古アパートを建替えたい、と主張するのではなく、耐震性の問題を説明していくというのが、こうした裁判では典型的な流れになっています。今回は、特に、区が指定する建築士の耐震診断が1つの決め手になったようでした。
以上、今回のテーマは、「古アパートの建替え。立退きのコツは〇〇性をアピール」についてでした。では今日の話はここまで。