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皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。
同族間で土地を無償で貸し借りする際には、税務上の特例が適用できます。このとき必要となるのが、「土地無償返還届出」というものです。
この記事では、「土地無償返還届出」にまつわる、資産管理会社の相続で注意すべき点について、東京地裁の平成27年11月26日(事件番号:平成25年ワ25356号)の事例を元に解説していきます。
土地無償返還届出とは?
まず、「土地無償返還届出」について簡単に説明します。
この届出制度は、個人と同族会社、もしくは同族会社同士の土地の賃貸借契約において、土地を無償で貸し借りする際に利用されるものです。
たとえば貸主(地主)と借主(同族会社)の間で、借地権を設定しない土地賃貸契約を結ぶことは多々ありますが、この土地を「将来、無償で返還する」と宣言する書類ともいえます。
この「土地無償返還届出」を税務署に届け出ることで、税務上の特例が適用されます。具体的には、土地貸借に関する税金が免除される仕組みです。
権利金・相当の地代を支払わずに、無償で土地を借りた場合、本来は「借主(同族会社)は貸主(地主)から、借地権をもらった」とみなされてしまいます。この場合、借主側には相当額の受贈益が計上され、納税額が増えてしまうのです。
しかし「土地無償返還届出」を適切に提出すれば、上記のような権利金相当額への課税は行われません。そのため地主と同族会社(管理会社など)の間で土地を貸し借りする場合は、この「土地無償返還届出」を提出しているケースが多々あります。
ただし、この届出はあくまで税務上の手続きに過ぎず、法律的な借地権の有無に影響を与えるものではありませんので、その点はご注意ください。(税務的な詳細については、今回は割愛します)
地主の相続で「土地無償返還届出」が問題となった事例
この「土地無償返還届出」が、地主の相続で問題となった事例がありますので、概要を見ていきましょう。
- お父さんが土地と建物を所有していたが、亡くなり相続が発生
- 子どもは2人おり、土地を次男、建物を長男がそれぞれ別々に相続
- 建物はお父さんの個人名義ではなく、法人名義となっていた
その後、地主となった次男が長男に対し建物の明け渡しを求めました。
その根拠として次男は「土地無償返還届出」を挙げました。「土地無償返還届出があるのだから、土地を相続した次男に、土地を返してほしい」ということですね。
しかし、長男はこれに反論し、「実質的には借地権を有している」と主張しました。
そして裁判所は、次男の主張を退け、長男の主張を認めました。
なぜならば、土地無償返還届出はあくまで税務上の手続きであり、この届出がされたからといって、借地権が消滅するわけではない、と判断されたためです。
つまり借地借家法が優先され、土地無償返還届出ではなく、長男の借地権が認められたともいえます。
今回の事例から分かるとおり、「土地無償返還届出」だけでは建物の明け渡し請求を、正当化することはできないのです。
相続に備えて考えるべき「土地無償返還届出」の注意点
この事例をふまえ、不動産鑑定士の立場から、相続に備えて考えるべき「土地無償返還届出」の注意点を2つ紹介します。
- 無償返還届出を過信しない
- 相続時に慎重な財産分割をする
無償返還届出を過信しない
「無償返還」と聞くと、言葉通り土地が無料で返ってくるように思いがちですが、現実には借地借家法が適用され、トラブルになる可能性があります。
そのため、確実に土地の返還を実現するためには、「無償返還届出」以外の方法で対策しなければなりません。
相続時に慎重な財産分割をする
今回紹介した事例のように、土地と建物の所有者が別々になる場合、相続時点でのトラブルを避けるための分割案を事前に検討しておくことが重要です。もしくは土地と建物を同一人物が相続できるよう、遺言書で指定しておくのも検討すべきでしょう。
まとめ地主の相続対策は不動産鑑定士に相談できる!
今回紹介した事例のように、土地は地主個人の名義、その上の建物は管理会社名義というケースも珍しくありません。
そのため地主の相続対策は、不動産鑑定士などの専門家の意見も反映しながら、どのように運営し、どのように分割すべきか、時間をかけて考えることが大切です。
当事務所でも地主の相続対策をサポートしておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
