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皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。今日のテーマは「地主の執念!驚くほど借地立退料を安くできたケース」です。今回は東京地裁の令和4年3月17日、事件番号令4年ワ35637号の「建物収去土地明渡等請求事件」を参考に、借地の立退料に関する実例について学びたいと思います。なお、地裁の判決内容はあくまで個別の事情や背景を踏まえたものですので、皆さんの不動産にそのまま当てはまるわけではないことをご理解ください。
事案の概要
まず事案の概要です。地主が借地人との間の土地賃貸借契約が期間満了などにより終了したと主張し、借地人が所有する建物の収去とその土地の明渡しを求めた事例です。物件の場所は、おそらく東京都新宿区の住宅地であると考えられます。結論から言うと、この事例では借地権価格の1割の立退料を支払うことで、地主の土地明渡しが認められました。
具体的な状況
具体的な状況について説明します。まず、地主の主張からです。地主は現在、借家住まいで自宅を所有しておらず、現住所は築35年のマンションで、設備も古くエレベーターもないため、78歳の高齢者にとって3階までの階段の上り下りが負担だと述べています。そのため、自宅建築に適した土地が他にないため、本件土地に自宅兼アパートを建て、1階に住みたいと主張しています。
次に、借地人の言い分です。借地人は、地主が本件土地の他に複数の不動産を所有しており、その中のアパートの1室にでも居住できるのに、わざわざ借家住まいをしている点を指摘しています。また、75歳を超えて自宅を新築するのは不自然だと反論しています。つまり、地主は他にも底地やアパートを持ちながら、なぜ本件借地権の近くで借家住まいをしているのかという点が疑問視されています。
裁判所の判断
では、裁判所の判断はどうだったのでしょうか。裁判所は、以下のポイントに基づいて判断を下しました。
- 1. 借地人は本件土地に住んでいない。
2. 当初は居住目的で契約されていたが、現在は賃貸目的に変わっている。
3. 借地人は現役で働いており、本件建物からの賃料収入は生活にとって必要不可欠ではない。
4. 建物は築50年以上経過しており、投下資本の回収に必要な期間は既に経過している。
5. 建物は老朽化しており、リフォームや建替えをしなければ新たに賃貸するのは困難な状況である。
これらの理由を挙げ、借地人が本件土地を使用する必要性は低いとしました。
一方で、地主については、借家住まいで自宅を持たず、他に自宅建築に適した土地も持っていない点が考慮されました。現在の住まいから自宅を建てたい理由は理解できるとしました。
判決とその内容
その結果として、裁判所は本件の通常の借地権価格が約5,500万円であるところ、立退料は借地権価格の約1割にあたる600万円が妥当であるとしました。この立退料は、通常のケースと比べて驚くほど安いものであり、地主が強い正当事由を有していたため、この金額で妥当と判断されたのです。
不動産鑑定士としての意見
最後に、不動産鑑定士としての意見を述べます。今回の判決において示されたポイント、たとえば借地人が住んでいないことや建物の老朽化が進んでいることなどは、地主にとっても参考になる点です。特に、地主が他に底地やアパートを持ちながらも、この借地権の近くでわざわざ借家住まいをしていた点は、執念と周到な準備が感じられます。余談ですが、もしかすると地主は「今にみてろ」と思い、毎日階段の上り下りをして3階から本件借地権を苦々しく見ていたのかもしれません。そのおかげで足腰も鍛えられ、健康とお金を手に入れたのかもしれませんね。
まとめ
以上が今回のテーマ「地主の執念!驚くほど借地立退料を安くできたケース」の解説でした。それでは、今日の話はここまで。また次回お会いしましょう。