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皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。今日のテーマは、「不動産鑑定があれば安心!トラブルになりがちな遺産争い」についてです。
事案の概要
今回は、東京地裁の令和4年1月27日、事件番号令和2年ワ、29763号を取り上げ、不動産評価が遺産分割に与える影響について、実際の事例を交えて解説します。具体的に、遺産分割を巡る不動産評価にどのような差が生じるのか、その理由についても詳しく説明したいと思います。
なぜ過去の遺産分割協議が争われたのか?
このケースは、過去に締結した遺産分割協議が無効だとして争われたものです。なぜ過去の遺産分割協議が争われたのでしょうか?それは、当時の不動産評価が市場相場よりも安く見積もられていた場合、最終的に各相続人に配分される金額が安くなるからです。具体的には、訴えた側は、遺産分割協議の前提となった不動産評価が不当に安く、そのために自分の取り分が少なくなったと主張しています。
不動産評価の差異
さて、実際に争われた不動産評価について、以下の通り数字に差が出ていました。こちらの図をご覧ください。
価格時点 | 評価した日 | 評価額 |
A鑑定 | 平成14年 | 約1.2億円 |
B査定(大手不動産会社) | 平成14年〜平成31年 | 約3.6億円 |
C鑑定 | 平成14年〜令和3年 | 約2億円 |
ちなみに、この不動産は平成23年に9,000万円弱で売却されています。
裁判所の判断
結論から申し上げますと、裁判所は、当時のA鑑定が適正であったと判断しました。その理由は、B査定とC鑑定は、当時の市場価格を反映していないため説得力が欠け、評価が過去20年分を遡って行われていたこと自体に無理があったからです。さらに、大手不動産会社によるB査定は、不動産鑑定書ではなく、あくまで売却提案書であり、正式な不動産鑑定書には代わるものではないと指摘されました。C鑑定についても、実際に物件が9,000万円弱で売却された事実を考慮していない点が評価に影響したとされ、精度が低いとされました。
したがって、平成14年当時のA鑑定は問題がなく、遺産分割協議も適切であったとされ、訴えは退けられました。
不動産鑑定士からのアドバイス
最後に、不動産鑑定士としてのアドバイスをさせていただきます。遺産分割協議を行う際、不動産に関して争いが生じた場合の最も効果的な解決方法は、実は法律や税務ではなく、「不動産の適正評価」であることが多いです。この評価は、客観的な不動産価値に基づくものであり、当事者の主観的な価値や感情的な価値は含まれません。よくあることですが、当事者の中には、思い出が詰まった物件に対し、プライスレスな価値を見出すことがあるため、話し合いだけでは解決が難しい場合もあります。
そのため、遺産分割協議を行う際には、事前に適正な不動産鑑定書を取得することが非常に重要です。これにより、後々のトラブルにも適切に対処することができます。また、第三者の意見を取り入れることで、話し合いが円滑に進むこともあります。遺産分割協議を行う際には、こうした点を考慮しておくと無用な争いを防げるかもしれません。
まとめ
ちなみに、実際にあった遺産を巡る争いにおける不動産鑑定士の解決事例を短編小説にまとめましたので、興味のある方は下記リンクを貼っておきます。ぜひご覧ください。
以上、今回は「不動産鑑定があれば安心!トラブルになりがちな遺産争い」についてお話しました。それでは、今日の話はここまでです。
【相続した土地をめぐる姉弟の対立を描くミニ小説はこちら】
思い出の樹【前編】https://nihonbashi-k.co.jp/info/useful/76/
同上 【後編】https://nihonbashi-k.co.jp/info/useful/122/
不動産をめぐる相続のよくあるトラブルの解決例として一助になれば幸いです。