立退き・契約解除について

総工事費300万円!借地上の建物の無断増改築で争った事例

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皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。
今日のテーマは「総工事費300万円!借地上の建物の無断増改築で争った事例」についてお話しします。
今回も前回に続き、令和2年3月27日東京地裁の「建物収去土地明渡請求事件」の判決を取り上げ、借地権の失敗例を学んでいきましょう。
この事例では、主たる訴えとは別に「借地人が無断で増改築を行ったため、借地契約を解除すべきだ」という地主側の主張が争点となりました。

■ 無断増改築と借地契約の基本ルール
まず、前提として借地契約の基本ルールを整理します。
借地契約において、建物の無断増改築が禁止されている場合、借地人が地主に承諾なく建物に増改築を行うと、地主は借地契約を解除することが可能です。
本件では、借地人が地主に断りなく増改築工事を行ったことから、地主は借地契約の解除を主張しました。
では、借地人が行った具体的な工事内容を見ていきましょう。

■ 借地人の工事内容
借地人は、建物の増改築に約300万円を投じました。その工事内容は以下の3点です。

  • 1. 鉄骨階段と廊下部分の塗装・防水工事
    2. 2階貸室の改修工事
    3. 風呂場の改修工事

■ 無断増改築にあたるかどうかの判断基準
無断増改築に該当するかどうかのポイントは、「建物の耐用年数が延びるかどうか」です。
建物の耐用年数が延びる工事は、地主にとって借地権返還の時期が遅れる可能性があるため、地主に不利益をもたらします。これが、無断増改築を禁止する理由です。

■ 裁判所の判断
本件において、裁判所は次のように判断しました。

  • • 借地人が行った工事はいずれも経年劣化の回復を目的としたものであり、建物自体の耐用年数に影響を与えない。
    • したがって、これらの工事は地主の承諾が必要な「増改築」には該当しない。

その結果、地主の「借地契約解除」の主張は認められませんでした。

■ 工事内容についての考察
私の意見を交えて、工事内容を詳しく見てみましょう。

  • 1. 鉄骨階段と廊下部分の塗装・防水工事
    塗装や防水工事は、建物の外装の劣化を補修するものであり、建物全体の耐用年数を大きく延ばすものではありません。
    2. 2階貸室の改修工事
    流し台の交換、クロスや畳の張り替えといった内容であり、これも建物全体の寿命を延ばす「改築」には該当しないと考えられます。
    3. 風呂場の改修工事
    浴槽の交換が主な工事内容であり、耐用年数を延ばしたとは言いにくい工事です。
    ただし、本件建物は築60年と老朽化が進んでおり、今後は屋根の全面ふき替えなど、耐用年数を延ばすような工事が必要になる可能性があります。そのため、地主としては無断増改築の有無を把握するため、現場を定期的に観察しておくことをお勧めします。

■ この事例から学べること
この判例を通じて、以下の点を学ぶことができます。

  • 1. 増改築の定義を明確に把握する
    無断増改築に該当するかどうかは「建物の耐用年数に影響を与えるか」が重要な判断基準となります。
    2. 地主の管理意識が重要
    借地上の建物の老朽化が進むと、無断で耐用年数を延ばす工事が行われるリスクが高まります。地主は借地物件を定期的に確認し、必要に応じて適切な対応をとるべきです。

おわりに
今回のテーマは「借地上の建物の無断増改築に当たらないとされた判例」についてでした。
借地人と地主の関係では、互いの権利と義務を正しく理解し、トラブルを未然に防ぐことが大切です。

それでは、また次回お会いしましょう。

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