立退き・契約解除について

立退料が安すぎて借地の立退きが否認された裁判例

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皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。
今日は「立退料が安すぎて借地の立退きが否認された裁判例」についてお話しします。具体的には、令和2年3月27日、東京地裁で扱われた「建物収去土地明渡請求事件」の判例から学んでいきましょう。

■ 事案の概要
まず、地主と借地人それぞれの事情を簡単に整理します。

地主の事情

  • • 地主は40代後半の女性。
    • 相続で得た土地を複数所有しているが、いずれも第三者に賃貸しており、自身が利用できる土地がない状況。
    • そのため、本件の土地を借地人から明け渡してもらい、自宅を建てたいと考えていた。

借地人の状況

  • • 借地人は80歳の高齢女性で、本件建物の1階部分に一人暮らしをしている。
    • 2階部分は賃貸しており、毎月14万円の家賃収入を得ている。
    • 生活費は、この家賃収入に月額6万5,000円の年金を加えた約20万円でまかなっている。

地主は、このような状況の中、契約更新を認めずに借地契約の終了を主張し、借地人に立退きを求めました。

■ 裁判所の判断
結論として、この立退きは裁判所に認められませんでした。
その理由は以下の通りです。

1. 借地人の生活への影響
・ 借地人は、所有している建物に住んでおり、家賃収入を生活費に充てている。
・立退きを命じると住まいだけでなく家賃収入も失うため、結果的に月額6万5,000円の年金のみで生活せざるを得なくなる。
・ 81歳という高齢を考えると、他の収入を得るのは困難であり、生活が立ち行かなくなると判断された。

2. 地主の事情は別問題とされた
・ 地主は現在、兄が所有するマンションの一室を借りて住んでおり、兄から賃料の値上げを求められている状況でした。
・しかし、裁判所は「周辺相場の賃料を支払えば引っ越し可能」とし、地主の事情を借地人の立退きには直接結びつけませんでした。

これらの理由から、裁判所は借地人の居住権を優先し、立退き要求を認めませんでした。

■ 立退料の提示額が不適切だった?
本件では、地主は立退料として1,500万円を提示していました。
しかし、裁判所はこの金額が不十分であると判断した可能性があります。以下に背景を説明します。

  • • 本件土地の借地権がない場合の土地価格は9,000万円以上と推定されます。仮に土地価格を1億円とすると、1,500万円の立退料は借地権割合にして15%に相当します。
    • 一般的に、この割合は低めといえます。もし立退料が適正な額(例えば30~40%程度)で提示されていれば、裁判所の判断は変わった可能性があります。
    • 裁判所の判決文を見ると、「借地人が追い出されて生活できなくなるのは問題だ」という論調が強いです。そのため、適正な立退料を提示していれば、借地人の生活再建の目途が立つという点を理由に立退きが認められたかもしれません。

■ この事例から学べること
最後に、この事例から学べるポイントをまとめます。

1. 高齢の借地人の立退きは難しい
借地人が高齢の場合、裁判所は居住権を手厚く保護する傾向があります。特に、居住地が生活の基盤となっている場合、立退きを求めるのは簡単ではありません。

2. 立退料の重要性
適正な立退料の提示が重要です。本件のように提示額が低いと、裁判所から認められにくくなります。立退料は市場価格や借地権割合を考慮し、現実的かつ妥当な額を提示する必要があります。

おわりに
今日のテーマは「立退料が安すぎて借地の立退きが否認された裁判例」についてでした。高齢化が進む中で、今後も同様のケースは増える可能性があります。地主、借地人双方が納得できる形で交渉を進めることが大切です。

それでは、また次回お会いしましょう。

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