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皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。
古いビルやアパートを持つ地主や家主にとって、建物の建て替えを進める際にテナントに支払う立退料は、非常に頭を悩ませる問題です。
そこで今回は、特に該当する方が多いと思われる「飲食店」と「歯科医院」「店舗」に焦点を当て、最新の立退料判例をいくつか紹介します。
立退料相場は家賃の40か月~173か月と幅がある
下記の表は、店舗の立退料が月額家賃の何か月分にあたるのか、裁判例を私のほうでまとめたものです。
建物の築年数(店舗) | 借家契約の期間 | 業種 | 月額家賃(管理費込) | 借家人の要求 | 立退料の判決 | 月額家賃 ÷ 立退料(約) |
50年程度 | 45年度 | 理容店 | 10万円 | 2,000万円以上 | 802万円 *1 | 80ヶ月 |
65年以上 | 40年以上 | 理髪店兼住居 | 12万円 | 5,280万円 | 972万円 *2 | 81ヶ月 |
47年程度 | 20年程度 | 1F 台湾料理店 | 58万円 | 判決額以上 | 2,330万円 *3 | 40ヶ月 |
44年程度 | 18年程度 | タイ料理店 | 55万円 | 8,624万円 | 3,000万円 *4 | 55ヶ月 |
55年以上 | 40年程度 | とんかつ店 | 40万円 | 1億6,500万円 | 3,000万円 *5 | 75ヶ月 |
40年程度 | 13年程度 | ラーメン屋(7席) | 15万円 | 2,000万円 | 1,556万円 *6 | 104ヶ月 |
70年以上 | 50年程度 | 1F 骨董品屋 | 20万円 | 1億6,370万円 | 1,270万円 *7 | 64ヶ月 |
53年以上 | 10年程度 | 1F 古美術商 | 10万円 | 1億1,448万円 | 1,730万円 *8 | 173ヶ月 |
出典は、【ケーススタディで学ぶ】地主が知っておくべき 地代交渉と借地・共有地の有効活用 /ロギカ書房 2022、P238より。
これら事例を見てわかるとおり、実際の立退料は家賃の40か月〜173か月分と幅があり、いくらが適正金額なのか、一概に表すのは難しいのが実情です。
関連記事:【貸主向け】店舗の立退料は月額賃料の何か月分が相場?裁判例に沿って解説!
そうはいっても、もう少し幅を絞って立退料の目安を知りたいという方もいるでしょう。そこで「飲食店」と「歯科医院」にフォーカスして、より詳細な事例を見ていきます。
飲食店の立退料事例
それでは飲食店を中心とした4つの事例について見ていきましょう。
建物築年 | 借家期間 | 業種 | 月額家賃 | 借家人要求 | 立退料判決 | 立退料月割 |
40年程度 | 13年程度 | ラーメン屋(7席) | 15万円 | 2,000万円 | 1,556万円 | 104ヶ月 |
47年以上 | 20年程度 | 1F台湾料理 | 58万円 | 判決額以上 | 2,330万円 | 44ヶ月 |
44年程度 | 18年程度 | タイ料理店 | 55万円 | 8,624万円 | 3,000万円 | 55ヶ月 |
55年以上 | 40年程度 | とんかつ店 | 40万円 | 1億6,500万円 | 3,000万円 | 75ヶ月 |
ラーメン屋、台湾料理屋、タイ料理屋、とんかつ屋と並びますが、それぞれの立退料は月額家賃の50~100カ月程度です。
例えば、小さな7席だけのカウンターラーメン店が月額家賃の100カ月分もの立退料判決が出ています。
この額からは、このお店が相当な人気店で利益を上げていたことが伺えます。また、借家期間が13年程度だったため、13年間の家賃収入を丸ごと返還するような形になっていますね。
一方、とんかつ店では借家人がなんと1億6,000万円もの立退料を要求しており、オーナー側からすると足元を見られている印象を受ける金額です。(実際の立退料は3,000万円でした)
歯科医院の立退料事例
次に、歯科医院の立退料事例です。
建物築年 | 借家期間 | 業種 | 月額家賃 | 借家人要求 | 立退料判決 | 立退料月割 |
39年程度 | 30年程度 | 2F歯科医院
(70代) |
21万円 | - | 5,223万円 | 249ヶ月 |
この判例では月額家賃の249カ月分、つまり家賃20年分が立退料として支払われました。
高額判決の背景には以下の要因が挙げられます:
- 新規移転時の医療設備費用が高額になる点
- 借家人である歯科医が高齢で、立退料が実質的に退職金のような役割を果たしてしまった点
これもオーナーにとって非常に厳しい金額となりました。
立退料の裁判においては「正当事由」が鍵となる
最後に、立退料の裁判において注意すべき点をお話しします。
裁判における立退料は、あくまで建物所有者が立退きを求める「正当な理由」を補完するものです。
つまり、立退料だけでは正当な理由にならず、まずは「正当事由」を明確にする必要があります。
正当事由の判断は弁護士の専門分野ですが、不動産鑑定士としては立退料の妥当性を評価する立場から関わります。
疑問があれば、早めに弁護士に相談し対策を講じることをお勧めします。
以上、今日のテーマは「【保存版】店舗立退料の相場」についてでした。
判例や裁判に関する知識は、建て替えを検討する際の非常に重要な参考資料になりますので、ぜひ参考にしてください。
今日の話はここまで。もし立退料についてさらに詳しく相談したいという方は、ぜひお気軽にお問い合わせください!