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こんにちは、不動産鑑定士の三原です。今日のテーマは「地主の奮闘!実家に隣接する借地権の立退き③」として、不動産鑑定士から見た立退料に関するポイントを解説します。
前回の動画で裁判所は地主の主張を認め、立退料を支払うことで借地契約を解除できると判断しました。今回はその立退料について深掘りします。
1. 地主が提示した立退料
地主は立退料として3,800万円を提示しました。この金額は借地権の買取価格に相当する価格であり、借地権価格を基にしています。
2. 立退料の算定基準
借地権の立退料は、借地権価格を基にするのが一般的です。借地人は借地権を失うことで経済的価値を失いますので、立退料はこの価値を補填する役割を果たします。
3. 本件借地権価格について
① 地主の根拠
地主は不動産鑑定士に依頼し、近隣の公示価格を基に算出しました。算定結果は以下の通りです:
- • 土地価格:6,388万円
• 借地権価格:4,471万円(借地権に7割を掛け算)
裁判所はこの算定を信頼できるものと認めました。
② 借地人の根拠
借地人は、不動産仲介業者が作成した査定書を持ち出し、土地価格を8,943万円と主張しました。しかし、裁判所はこの査定書を信頼性に欠けるとして採用しませんでした。
③ 立退料が借地権価格より低い理由
裁判所は、借地権価格(4,471万円)に対して3,800万円の立退料を認めました。その理由は以下の通りです:
- • 借地人が契約期間終了を予測していたこと
• 建物が老朽化していること
• 借地人が家賃収入を得ていないこと
これにより、借地権価格は相対的に低く見積もられ、立退料はその価格よりも低く算定されました。
4. 不動産鑑定士からの視点
(a) 不動産業者の査定書
裁判では、不動産業者が作成した査定書は信頼性が低いとされる傾向があります。業者の査定書は売却を前提にした提案書として使われることが多いためです。
(b) 借地権価格の低い算定
本件では、借地権価格が公示価格ベースで算定され、実勢価格が反映されませんでした。私の調査では実勢価格は公示価格の1.2倍程度と考えられます。
(c) 立退料が実勢価格の50%
立退料は、実勢土地価格の50%程度と計算されました。通常、立退料は更地の実勢価格に対して70%程度で計算されることもありますが、今回は双方の事情を踏まえ、50%に抑えられました。
計算式:
- • 実勢土地価格:7,665万円(6,388万円 × 1.2倍)
• 立退料:3,800万円
• 立退料割合:3,800万円 ÷ 7,665万円 ≒ 50%
まとめ
この判例では、借地権の価値が低く見積もられ、立退料もそれに基づいて算定されました。裁判所の判断は、借地人の事情と地主の事情を天秤にかけて、双方の状況を考慮した結果、立退料を安く設定したことがポイントです。
以上が「地主の奮闘!実家に隣接する借地権の立退き③」の解説でした。また次回お会いしましょう!