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こんにちは、不動産鑑定士の三原です。今回は「借地の立退きを実現するポイント」について、地主が借地権の立退きに挑戦した裁判例をもとに解説します。
この事案は、地主にとって非常に参考になる内容ですので、ぜひご覧ください。少し難しいかもしれませんが、ぜひ最後までお付き合いください。
借地権とは
そもそも借地権とは、建物を所有する目的で、土地を借りる権利のことです。
土地の所有者(地主)と、土地を借りる人(借地人)との間で締結される賃貸借契約または地上権設定契約によって借地権が発生し、現在の法律では借地人が強く保護されています。
つまり借地の立退きを実現するのは簡単ではないということです。
地主が借地権の立退きに挑戦した裁判例
それでは地主が借地権の立退きに挑戦した裁判例について見ていきましょう。
地主は20代後半の女性で、祖母から相続した土地を所有しています。
この土地は、実家の隣にあります。
そして、この女性、つまり地主は結婚を決め、実家の隣に新居を建てることにしました。そのため、借地権が設定されている土地に住んでいる借地人に対して立退きを求めました。
具体的には、地主として契約更新を拒絶し、期間満了を理由に本件建物の収去と土地の明け渡しを求めたのです。
地主が借地権の立退きを求めた際の言い分
次に、地主の言い分について説明します。
• 実家の隣が最適な場所
地主は婚約後、結婚しても両親と同居することが難しく、結婚後の生活や子育てのサポートを受けるために実家に隣接する土地に新居を建てる必要があると主張しています。
• 借地人は投資物件として利用している
地主は他にも土地や建物を多く所有していますが、すべて第三者に賃貸しています。
すべての物件は第三者が自ら居住するために利用しているため、実際に居住するための土地は限られています。
一方、借地人は本件土地の建物を第三者に賃貸しており、実際に自己利用していません。
• 立退き料の準備
地主は立退き料として、借地権価格相当の3,800万円を準備していることも説明しています。この立退き料が、正当事由を補完するものであると主張しています。
借地人の言い分
借地人は、20年ほど前に定年退職後、競売で本件土地を取得した個人投資家です。借地人の主張は次の通りです。
• 本物件に多額の費用を投資した
借地人は競売で本物件を2,400万円で購入したほか、改修工事や承諾料などにも多額の費用をかけています。
• 家賃収入は生計維持に必要
借地人にとって、本件から得られる家賃収入は生活費の維持に欠かせない重要な収入源であるとしています。
• 地主には他にも不動産がある
借地人は、地主が本件土地以外にも多くの土地を所有していることに言及し、他に土地があるのだから、わざわざ本件土地を利用する必要はないのではないかと主張しています。また、地主の実家が広大で二世帯住宅として利用できる可能性もあるため、この点も反論の材料となっています。
地主は、いわゆる土地資産家の娘であるため、借地人の言い分を聞くと、立退きは難しいのではと思うところもありますね。
裁判例から考えられる借地の立退きを実現するポイント
さて、この裁判では、立退きを認め、地主が勝訴しました。
裁判例から考えられる、借地の立退きを実現するポイントを見ていきましょう。
立退き後の土地を地主が自ら利用することが目的
地主は多くの土地建物を所有していますが、それらはすべて第三者に貸しています。一方、借地人は本件土地を自己居住用として使用していません。
また、地主が結婚を機に新居を考えることは自然なことであり、自己所有地があれば、それを利用したいと考えることも当然です。このため借地人が反論する「実家に同居すればよい」といった主張は採用されませんでした。
つまり、地主が土地を自ら利用するのが適当だ、という判断が下されたのです。(なお、裁判官が女性であるため、女性の地主の気持ちに理解があったのかもしれません)
立退きをする借地人の経済的デメリットが少ない
今回の事例では、借地人は「本件建物からの収入が生計維持に必要だ」と主張しましたが、実際には他にも収益用不動産を所有し、年金収入もあります。そのため、この主張は強くありません。
また、借地人は本件建物に3,270万円を投じましたが、約20年間でその費用を回収しているとされ、実質的に追加の負担はないと判断されました。借地人の経済的デメリットが少ない点も、立退きが認められた一因といえます。
立退きをしても借地人に住む場所がある
借地人は「本件建物を改修し、自己使用する予定だ」とも主張していましたが、すでに他に自宅を所有しており、改築後の本件建物を使用する必要性は低いとされています。
立退きをしても借地人に住む場所がある、という点も、判断材料の一つといえるでしょう。
立退料が支払われる
裁判所は地主と借地人双方の事情を総合的に考慮し、借地人が本件建物からより多くの経済的利益を得ようとしていると判断しました。
このため相当額の立退料を支払うことで、借地契約を解除できると判断しました。
借地の立退きも不動産鑑定士に相談できる!
今回の裁判例をふまえると、借地の立退きを実現するポイントとしては、次の4点が挙げられます。
- 立退き後の土地を地主が自ら利用することが目的
- 立退きをする借地人の経済的デメリットが少ない
- 立退きをしても借地人に住む場所がある
- 立退料が支払われる
とくに立退料については、安すぎると立退きが否認される可能性もあるため、熟慮して額を決める必要があります。
関連記事:借地立退きの否認を防ぐには?立退料が安すぎて立退きが否認された裁判例からポイントを学ぶ!
しかし、むやみに多額の立退料を支払う必要もありません。どのくらいの立退料が適正かどうかは、ぜひ不動産鑑定士にも相談してみてください。当事務所でも、地主さんからの相談を承っております。
