下記のブログは、こちらから音声でお聞きいただけます。
皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。
借地人が、借地権付き建物を第三者に売却する場合、地主は「譲渡承諾料」を請求できます。
しかし様々な事情で、「譲渡承諾料を返還してもらいたい」と借地人から要求されることがあります。
今回は地主が損をしないために知っておきたい、譲渡承諾料の返還にまつわるルールについて見ていきましょう。
譲渡承諾料の返還が争点となった裁判例
まずは譲渡承諾料の返還が争点となった裁判例として、東京地裁の令和元年11月27日、事件番号令和2年(ワ)16019号を紹介します。
地主はあるお寺で、その土地を借地している借地人Aさんが、借地権付き建物を第三者Bさんに売却しようとしました。
この際、地主は譲渡承諾料として550万円を受け取りました。
しかし、その後、AさんとBさんの売買契約が破談になりました。
そこでAさんが地主に対して「既に支払った譲渡承諾料の返還」を求めた、という事件です。
結論として、裁判所は「地主は譲渡承諾料550万円を返還する必要はない」という判決を下しました。
地主は譲渡承諾料を返還する必要がない理由
裁判所が「地主は譲渡承諾料を返還する必要がない」と判決した理由を探るためのポイントは、以下の3つです。
- 地主と売買契約の関係性
- 錯誤(勘違い)による無効が成立するか
- 「受け取った違約金」と「譲渡承諾料」の関係性
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 地主と売買契約の関係性
借地人Aさんは、譲渡承諾料550万円を「売買契約が成立する前提」で渡したため、契約が破談した以上、返還されるべきだと主張しました。
しかし、裁判所は次のように判断しました。
- 売買契約の当事者はあくまで借地人Aさんと第三者Bさん。地主はその契約内容に関与していない。
- よって、契約が破談したとしても、地主には何の責任もない。
つまり、地主は譲渡承諾料を受け取る正当な理由があり、それを返還する必要はないとしました。
2. 錯誤(勘違い)による無効が成立するか
次に、Aさんは「売買契約が成立し破談しない」と誤信していたため、これは法律上「錯誤」にあたると主張しました。
「錯誤」とは、簡単に言えば「勘違い」のことで、意思表示が錯誤によるものであれば、契約を取り消せると法律で定められています。
しかし、裁判所は以下のように退けました。
- どんな契約でも、相手が債務を履行(この場合は売買代金の支払い)できない可能性は常に想定されるべき。
- 「契約が破談になることを全く想定していなかった」というAさんの主張は見込み違いであり、正当な理由にはならない。
つまり、契約が破談するリスクは、Aさんが予見すべきものでした。
3. 「受け取った違約金」と「譲渡承諾料」の関係性
最後に、借地人Aさんは、第三者Bさんとの契約が破談になった際、違約金として売買金額の20%(5000万円のうち1000万円)を受け取っていました。裁判所は、以下の点を重視しました。
- 借地権の譲渡承諾があったからこそ、Aさんは違約金を受け取ることができた。
- にもかかわらず、地主に譲渡承諾料を返還しろというのは、話の筋が通らない。
このような理由から、地主が譲渡承諾料を返還する必要はないと判断されたのです。
譲渡承諾料の返還を求められたら専門家に相談!
この判例から、不動産取引における重要なポイントが見えてきます。地主の立場に立つと、譲渡承諾料を返還するかどうか迷った場合は、弁護士など専門家に相談することをお勧めします。
特に特殊なケースでは、返還の義務がない場合もあるため、専門的なアドバイスを受けるのが最善です。
また、借地人や地主のどちらにとっても、不動産取引に精通した専門家(不動産鑑定士や宅地建物取引士など)に相談することで、大きな損失を防ぐことができます。
知らないがゆえに550万円を返還する必要がない場面で返してしまうことがないよう、事前の確認が重要です。
当事務所でも地主の方からの相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。