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皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。今日のテーマは、「老朽化したボロ家寸前の借地の立退料」の解説です。
借地を返してもらう際、立退料の支払いが必要になるケースが多いですが、建っているのが老朽化したボロ家寸前のものだった場合、立退料は安くなるのでしょうか。
今回は、東京地裁の令和3年8月6日事件番号令和元年ワ、32855号から「朽廃寸前の借地権の立退料」について見ていきます。
なお、1つ注意点があります。一般的に、地方裁判所の判決の内容は、あくまで個別の事情や背景がベースになっています。皆さんの不動産にそのまま当てはまるものではないことにご注意ください。
建物の朽廃(きゅうはい)は借地権を消滅させる事由になりうる
事件の概要に入る前に、基本的な用語を説明しておきます。
まず、「朽廃(きゅうはい)」についてです。朽廃とは、簡単に言うと、老朽化が進んで住めないような建物のことです。
専門的には、「社会的経済的価値がなくなること」を意味しますが、要するにボロボロで住めない状態の建物のことです。
実は建物の朽廃は、借地権を消滅させる事由になりえます。
昭和の時代から契約が継続している借地権を「旧法借地権」と言います。
そして旧借地法では、建物が朽廃した場合に借地権が消滅するという規定が定められていたのです。
なお、旧借地法は平成4年7月31日以前に締結された借地契約に適用されます。(平成4年8月1日以降は、借地借家法が適用されています)
関連記事:建物の朽廃(きゅうはい)とは?借地権を消滅させる条件について不動産鑑定士が解説!
この「旧法借地権」で契約している場合、地主と借地人との間で合意更新がない場合、借地上の建物が「朽廃」すれば、借地権が消滅します。
地主側に立つと、契約更新もしていないような旧法借地権があり、その借地上の建物がボロボロであれば、この判例が関係してくると思います。
立退料を支払うことで老朽化した建物のある土地の返還が認められた事例
本事件における土地の状況は、次のとおりです。
- 借地の地代が月額1万4,000円程度
- 平成10年に合意更新
- 契約期間は20年
- 平成30年に期間が満了した借地権
- 借地上の建物は築後約50年が経過
地主は、平成30年の契約満了後、更新には応じず、建物の「朽廃」を理由に借地契約を終了させ、借地人に土地の明渡しを求めました。
この事例では、裁判所は、建物は「朽廃」にまで至っていないものの、借地権が終了する正当事由があると認め、地主に立退料を支払うことで土地の明渡しを認める判決を出しました。
判決で挙げられた正当事由の3つの理由は以下の通りです。
- 建物は「朽廃」まではいかなくても「かなり老朽化」していること。
- 建物は敷地と不適応で、敷地を有効活用できていないこと。
- 建物を取り壊すことが土地活用から合理的であること。
これら3つの理由については、不動産鑑定書の内容を引用して判決を下しています。
老朽化した建物のある土地の立退き料の金額
老朽化した建物のある土地の立退き料の金額についてですが、この判決では借地権の個別性を考慮し、借地権割合を更地価格の50%とした上で、さらに30%の減価を行い、約700万円を立退き料として支払うことが相当だと述べています。
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つまり、地主にとって非常に有利な判決でした。具体的には、2,400万円弱の更地価格の3割程度の立退き料が支払われました。
老朽化した建物のある土地の返還についても不動産鑑定士に相談できる
この判例から分かることは、「朽廃」まではいかない場合でも、借地契約終了と更新拒絶を理由に、比較的安価な立退き料を支払うことで土地の明渡しが認められる可能性があるということです。地主としても参考にできる内容ではないかと思います。
また、判例紹介でも触れたとおり、裁判所は不動産鑑定書の内容を引用して判決をすることもあります。
老朽化した建物のある土地の返還についてお悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。不動産鑑定士の立場から、どのような戦略で立退きを進めるべきかお話させていただきます。