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不動産を用いた相続対策は有効?相続税評価額を圧縮できる理由と注意点を不動産鑑定士が解説!

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こんにちは、日本橋鑑定総合事務所の不動産鑑定士、三原です。

地主の方や、富裕層の方は、やはり「相続対策」を避けることはできません。
そして相続対策というと、「不動産」を活用するのがいいということは、多くの方がご存知なのではないでしょうか。

しかし、なぜ不動産を用いた相続対策が有効なのか、不動産活用によってどのような効果が期待できるのか、細部まで把握できているでしょうか。

実はむやみに不動産を使った相続対策をすると、結果として相続税評価額を減らせないこともあるため注意しなければなりません。

今回は、不動産を用いた相続対策に関連する「2019年8月末東京地裁判決」を見ながら、不動産による相続税対策がいかに有効であるかと、不動産を相続対策に利用する際の注意点を解説します。

相続税計算は「路線価」に基づく

そもそも相続税の計算は、「路線価」に基づきます。

路線価は、国税庁が毎年公表している、土地の相続税計算のための基準です。土地を相続した場合、路線価をベースに税額が算出されます。

一般的に、路線価は時価よりも低く設定されています。これは、路線価が公的時価の約80%で設定されるためです。

しかし、土地の個別性が強い場合(例えば、がけ地や高低差のある土地など)、路線価が時価より高く評価されることもあります。(路線価>時価ということです)

また、都市部では、土地取引が活発なため、実勢価格が路線価の2倍、3倍になることもあります。(路線価<<<時価、といえるでしょう)

路線価と実勢価格の違いを相続対策に活用する方法

このような路線価と実勢価格の違いを利用して、相続税を少なくする方法が存在します。

たとえば相続財産が、現金1億円だとしましょう。この場合の相続税評価額は1億円です。

しかし現金1億円で、実勢価格1億円の不動産を購入するとどうなるでしょうか。

路線価が公的時価の約80%とすると、路線価ベースの評価額は約8,000万円になります。

これだけで評価額を2,000万円も圧縮できました。

ただし、相続対策の実務では、これほど単純に事を進められるとは限りません。

実は、「路線価による相続税評価が著しく不適当と認められる特別の事情がある」と税務当局が判断した場合、否認されてしまう可能性があるのです。

そのため不動産を活用した相続対策を進める際は、不動産鑑定士などの専門家へ相談することをおすすめします。

路線価による相続税評価が争点となった裁判

ここで、2019年8月末に東京地裁で下された、路線価による相続税評価が争点となった裁判について紹介します。

このケースでは、相続が発生する前に、東京都内のマンション(購入額8億3700万円)と、神奈川県内のマンション(購入額5億5000万円)の2つの不動産を購入しました。購入額の合計は13億8700万円です。
相続が発生すると、相続人は路線価を基に相続税を計算しました。その結果、2つのマンションの評価額は合計でなんと3億3000万円となりました。

つまり、購入額13億8700万円に対して、相続税評価額は3億3000万円にしかならず、差額は10億5700万円。この差額分が、相続税を大幅に減少させたのです。

この事例を現金で考えると、13億8700万円の現金をそのまま相続すると、当然評価額は13億8700万円となります。一方、不動産に変えると、その評価額が3億3000万円になるため、相続税評価額は大きく下がることがわかります。
このケースでは、評価額は購入額の約24%に過ぎないということです。これにより、相続税の負担を大幅に減らすことができました。

しかしこのケースでは、税務当局は「特別の事情」がある、つまり路線価と時価に乖離がありすぎると主張しました。

また、被相続人(亡くなった方)と納税者による、不動産取得(および購入資金借入れ)など行為が、「本来負担すべき相続税を免れる」ことを目的としたもの、つまり相続対策が目的であったとも主張しました。

これは他の納税者との公平性を欠くもので、税務当局として認められないと主張したのです。

結果として東京地裁における一審では、課税当局の主張を認め、各不動産は鑑定評価額で評価することが適正であるとされました。(ちなみにこのケースは上告審判決まで進みましたが、税務当局の主張が認められています)

不動産で相続税対策をするときの3つの注意点

この判例をもとに、相続税対策を行う際に気をつけるべきポイントを3つご紹介します。

  • 相続税対策をするタイミング
  • 被相続人の年齢
  • 不動産購入のための借入

相続税対策をするタイミング

まず最も重要なのは「タイミング」です。このケースでは、東京都内と神奈川県内のマンションを購入したのが2009年、その後相続が発生したのが2012年6月。さらに、2013年には神奈川県のマンションを売却しています。
相続前に不動産を購入し、その後すぐに売却して現金化するという「タイミングの良さ」が過剰に評価されました。

被相続人の年齢

この事例の被相続人は、相続発生時に94歳でした。収益目的を理由に不動産を購入したとしても、実際には相続税の負担を軽減するための手段として見られます。この点も、税務当局から否認される理由となりうるため、注意が必要です。

不動産購入のための借入

また、このケースでは不動産購入に銀行借入を利用しており、その結果、相続税がゼロとなったことも問題視されています。
過剰な相続税対策をした結果、納税者側の主張が認められなかったともいえるでしょう。

不動産を用いた相続税対策をするときは専門家へ要相談

不動産を用いた相続税対策は、現金よりも評価が低くなる傾向があり、これまで非常に効果的な節税方法として広く利用されてきました。しかし、2019年8月末の東京地裁判決を受けて、今後はこの手法を用いる際により慎重な検討が必要です。
不動産を利用した相続税対策は引き続き有効ではありますが、タイミングや相続人の状況、借入の有無など、細かい点に注意して行う必要があります。

当事務所でも、地主の方・富裕層の方向けに、不動産を使った相続対策のご相談を承っております。もし相続対策にお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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